fa-arrow-circle-right図解でわかる!還付金詐欺の実態
詐欺の種類は年々増えており、そのやり方も時代の変化とともにバージョンアップしていきます。
詐欺被害の報道を目にした際に、「被害に遭われた人は、かわいそう……」と同情したり、「人を騙してお金をせしめるなんて、けしからん!」と憤る人達だけではありません。
「そういうやり方があったのか!」「俺も真似してみよう!」と、詐欺の手口やアイデアを盗み実行に移す人間が存在します。
現代は超情報化社会です。
「スマホ一台あれば調べられないことなど、ほとんどない」といっても過言ではないでしょう。
これまでたくさんのお年寄りが被害に遭遇してきた還付金詐欺も特殊詐欺の一種として定着しています。
今回は、還付金詐欺がどういったものなのかを詳しく解説していきます。
目次
還付金詐欺の手口
還付金詐欺は、かなり巧妙な仕掛けがなされています。
還付金詐欺の4STEPに関して説明していきましょう。
還付金詐欺の4STEP
還付金詐欺がどのように行われるのか、4つのSTEPに分けて確認していきましょう。
- 市役所から電話がかかってきて「還付金をお渡しできます」と甘言を囁く
- 「ATMで返金するため、携帯電話とキャッシュカードを持参してください」とATMへ誘導
- 詐欺師が電話で指示をして被害者にATMを操作させる
- 被害者の口座から詐欺師の口座へお金が送金される
おおまかに分けると、上記の流れとなります。
最初に電話してくる犯人は、決まって市役所の人間であるふりをします。
誰だって「お金が戻る」と聞けば嬉しいものです。
この時点で脳内の報酬系とよばれる部位が反応して、被害者の脳からドーパミンなどの快楽物質が分泌されています。
ちなみに脳科学者の中野信子さんによると、快楽物質であるドーパミンは、
- セックス
- ギャンブル
- アルコール
- オンラインゲーム
などで大量に分泌されるそうです。
他にも
- 報酬としてお金を得たとき
- 褒められたとき
などに、脳にある線条体(せんじょうたい)が反応してドーパミンがたくさん出るようです。
いきなり見ず知らずの人間から電話がかかってきたとしても
- 市役所の公務員はお堅い職業なので安心
- 予期せずお金を手にすることができる
という罠にはめられて、早い段階で冷静な判断を下すのが困難になる人も……。
市役所から電話があった後、
と別の人間を絡ませて騙すケースもあります。
特殊詐欺は単独犯ではなく、複数が協力してひとりを騙しにかかるというケースが少なくありません。
還付金詐欺の被害が周知されたことにより、犯人側も慎重になってきました。
人がたくさんいるATMでは、目につきやすいため、リスク回避の目的であらかじめ調べておいた無人のATMに目星をつけておきます。
無人ATMを指定して
などと伝えることが増えてきました。
多くの高齢者は、携帯電話、スマホの操作やATMの操作などをマルチにするのがとても苦手です。
詐欺師側は、卑劣にもそこへつけこむわけです。
かなり焦ってIQが下がり、正常な判断ができなくなっている高齢者に
と猫なで声で話しかけます。
「振り込み」と書かれたボタンを押してくださいと言われ「ん!?この指示はさすがにおかしいぞ!」と感じたお年寄りが「還付金を受け取るのに、なんでこちらがお金を振り込むの!?」と疑問を呈するケースもあります。
詐欺師側は、そういったツッコミを受けるのは承知の上です。
想定内なのです。
と、謎のロジックを展開し、お年寄りはモヤモヤとしならも、その指示に従ってしまうのです。
振り込み操作が完了すると、被害者から犯人の口座へお金が渡るため、その状態から奪われたお金を取り戻すことはかなり難しいといわざるをえません。
還付金詐欺の被害者はどんな人が多い?
還付金詐欺の被害者になりやすいのは、ずばり高齢者です。
被害者全体の中で、60歳以上の方が実に9割以上を占めました。
中でも65歳~69歳の方は、被害者全体の4割を占めています。
男女比も確認していきましょう。
女性の被害者が多く、全体の約7割ほどです。
女性の被害が多くなる理由は解明されていないものの、男性と比べて在宅している時間が長かったり、かかってきた電話をとりやすいという傾向が強いのではないかといわれています。
特殊詐欺は、電話をしている家族の様子を第三者として見られる人がいればいいものの、独居のお年寄りはそれが不可能です。
還付金詐欺は、ひとり暮らしの女性が最も狙われやすいといえるでしょう。
還付金詐欺の犯人は時事ネタを細かくチェック
詐欺師と聞けば「凶悪な犯罪者」をイメージするかもしれません。
しかし、現実はそう単純でないものです。
まず、詐欺師は相手を信頼させる必要があります。
いきなり電話を掛けて顔も見えない相手を信頼させるのですから、簡単ではありません。
実は詐欺に求められるテクニックというのは、あなどれないものなのです。
還付金詐欺を働く人間が、ことのほか頻繁にチェックするのが時事ネタです。
詐欺師の発想は、我々と大きく異なります。
といった視点でテレビやネットのニュース、新聞などを隈なくチェックしています。
人間はお互い興味があったり、共通して知っている話題が出ると、心理的な距離がおのずと縮まります。
では例えてみましょう。
まだそれほど親しくないAさんとBさんが握手を交わしたとします。
Aさんは緊張のあまり力んでBさんの手を、ぎゅっと強く握ってしまいした。
Aさんは「しまった!強く握りすぎた~」と内心穏やかではありません。
ここでBさんがニカっと笑い「花山薫なみの握力ですね」と口にすればどうでしょう?
「おおっ、あなたも刃牙好きなんですか!」「握撃は勘弁してくださいね」と、刃牙好き同士だというのがわかり、一気に仲良くなれるはずです。
巨人ファンは相手が巨人ファンとわかれば嬉しくなりますし、阪神ファンは相手が阪神ファンだと判明すればたちまち意気投合するのも、全く同じ原理です(巨人ファンと阪神ファンの組み合わせは、血を見ることもありますが…)。
それくらい人は、相互に共通するネタや話を好みますし、何より安心感を得ます。
共通項があるということは、人間関係でそれだけ大切なことを詐欺師達は理解しています。
見ず知らずの人間に電話をかけて、いきなり詐欺の本題に入るほど詐欺師達はアホではありません。
と、有名ニュースの話題を出すだけで、怪しい詐欺師であることを巧みにカモフラージュします。
もちろん、たどたどしすぎるしゃべり方なら疑われますが、自信満々で話されたり、あるいは相手を心配するような声色で共通の話題を出されると、それだけでラポールが築かれることもあるでしょう。
次の項目で、人間心理について研究している詐欺師が、頻繁に利用する心理学用語ラポールという概念について説明します。
ラポール構築で騙せる確率がアップ!?
ラポールとは、もともと臨床の場で使われていた心理学用語です。
相互に親しい感情が交流し合う状態を指します。
「この人と一緒にいるのは心地良いなあ」「何時間でも一緒にいられる」「また会いたい」という思いを抱くのは、ラポールがしっかり形成されている証です。
最近では、ビジネスや教育など様々な状況で使われる機会も増えました。
ラポールを形成する上で有効になるのが
- 相手にとって有益なことを先にプレゼントする
- 相手がしてほしいことを察知して行動する
- 親身になって相手の話を傾聴する
- 相手の理解に努める
などです。
「払い過ぎたお金が戻ってくる」と教えてあげる風を装うことは、騙される側からすると「プレゼントをもらえた」という錯覚に陥っていると予想できます。
人は自己中心的な振る舞いをする人間を好まないようにできています。
反対に徹頭徹尾、相手を中心にした言動ができる人は好かれ、愛されるのが人間社会の定理です。
太鼓持ちの達人が、有力者とのコネクションを持っているのは、彼らがラポールを形成できているからでしょう。
もちろん詐欺師は相手のためなどとは、これっぽっちも思っていません。
心の奥底では「いかに金を騙しとれるか?」ばかりを考えています。
かといって、それを表面に出すかといえば否。
さも善人で優しそうな声掛けや言葉を並べて、巧妙に相手の信頼を勝ち取るのです。
還付金詐欺の被害者は、大半がお年寄りです。
一人暮らしをしているお年寄りは、寂しさを抱えていることが少なくありません。
心が愛で満たされていない状態で、
といった声掛けをされたなら、たちまち詐欺師を信用してしまうのもしかたないかも…?
手慣れた詐欺師ほど、いとも簡単に短時間で初対面の人相手にラポールを築く技術に長けています。
ラポールの形成は、対面以外の場でなくても電話などで築くことが可能なのです。
特殊詐欺の中で還付金詐欺が占める割合
還付金詐欺は、特殊詐欺の一種です。
警察庁が2019年に発表したデータを元に、特殊詐欺全体の中で還付金詐欺が占める割合について説明していきましょう。
還付金詐欺の被害や、およそ特殊詐欺全体の7分の1ほどです。
順位 | 詐欺の種類 | 割合 |
1位 | オレオレ詐欺 | 39.8% |
2位 | キャッシュカード詐欺 | 22.4% |
3位 | 架空請求詐欺 | 21.4% |
がTOP3に入りましたが、還付金詐欺はその次の4位です。
少なくないパーセンテージといえるでしょう。
還付金詐欺の被害は増えている?減っている!?
還付金詐欺の被害ですが、警察庁が公的に出しているデータを2016年~2020年まで見ていきましょう。
年 | 還付金詐欺の被害認知件数 |
2016年 | 51件 |
2017年 | 121件 |
2018年 | 59件 |
2019年 | 8件 |
2020年 | 288件 |
2009年に62件、10年に43件、11年に5件と、かつてはかなり減少傾向にあった還付金詐欺の被害が、近年また急増しています。
2020年が特筆して多い件数になのは「新型コロナウイルスによる自粛が影響しているのでは?」という見方がされています。
詐欺の電話が掛かってきたとしても、外出していれば詐欺師達とつながりようがありません。
高齢者ほど、新型コロナウイルスに罹患した際のリスクが高いのはご存じの通りです。
国立感染症は、80歳以上で基礎疾患がある患者の致命率(亡くなる割合)は2割を超えていると発表しました。
緊急事態宣言が度々出され、感染回避のため外出する機会が減ると、それだけ還付金詐欺の電話に答えてしまう確率が上がるというわけです。
2021年も緊急事態宣言の期間がかなり長いことから、還付金詐欺の認知件数はそれほど減っていないことが予想されます。
「自分だけは大丈夫!」という思い込みが危険!
程度の差こそあれ、どんな人でもプライドや自信を持つものです。
能力の高くないほど自分自身のことを過大評価してしまうことを、ダニングクルーガー効果と呼びます。
もちろんお年寄りの能力うんぬんについて言及したいのではなく、人は誰でも自己評価と客観的な評価がズレを起こしやすいとお伝えしたいのです。
近頃のお年よりは、パワフルでバイタリティーにあふれています。
年齢的にはシニアの範疇だったとしても「まだまだ自分は老けていない」「年寄扱いされるほど、老いさらばえていない」と考えている方も少なくありません。
多くのお年寄りがシニアというカテゴリに入れられるのを嫌うのは、「まだ老人と呼ばれるほど老いてはいない!」という心理の表れでしょう。
しかし、こういった心理こそが還付金詐欺を仕掛ける詐欺師に利用されやすいのも事実です。
「自分だけは大丈夫」と思っている人ほど詐欺師からすると心理操作が簡単で、「自分はもう若くないから注意しないと……」と慎重になっている人の方が騙されづらいといえます。
還付金詐欺への対応策
新型コロナウイルスの蔓延もあり、実家で暮らしているお父さんやお母さんになかなか会えずにいる人もかなりいるはず。
「うちの親も還付金詐欺に遭うのでは?」と、気が気ではない人や、お年寄りに向けて具体的な対応策を解説しましょう。
- 電話がかかり金銭に関する話が出た時点で自己判断しない
- 公的機関を名乗るからといってすぐに信用しない
- 知らない番号以外からの電話には出ないようにする
- 留守番電話にしておいて、知っている人の電話のみに後でかけ直す
意外と知れ渡っていないのですが、還付金の返還がATM操作によってなされることは決してありません。
確定申告で算出された還付金は、税務署がしっかり照らし合わせて問題なければ、後日口座に振り込まれます。
と言われた時点で、「むむっ、これは還付金詐欺に違いない!」と判断できるのが理想です。
つい油断してしまいそうな人は、電話機の前に「注意!絶対、還付金はATMで返還されない!!」と目立つように紙を貼っておくのも有効な手段です。
まとめ
還付金詐欺は令和に入っても、被害件数が増えるなどまだまだ収束の兆しが見られません。
こちらの記事を読んで「最近、親に連絡してないけど元気かな?」と思った人は、久々に電話してみてはいかがでしょう?
電話をかけた際に「ATM操作での還付金返還は絶対にない!」など、注意事項を伝えておくことで被害を未然に防げる確率がアップします。
家族間でのコミュニケーションの量や頻度を増やすことで、還付金詐欺をはじめとする様々な特殊詐欺被害を減らしやすくなるのです。
残念ながら、まだまだ特殊詐欺の被害は減りそうにありません。
ひとりひとりがトラストリテラシーを高めることです。
それこそが、特殊詐欺被害を減らすことにつながります。