fa-arrow-circle-right図解でわかる!取り込み詐欺の手口
今回紹介する取り込み詐欺は、明治時代からすでにありました。
令和の時代に取り込み詐欺が姿を消したかといえばそんなことはなく、むしろリモートが普及したコロナ禍の状況を利用して行われています。
中には東京オリンピックの延期で困窮する企業に狙いを定めた卑劣極まりない取り込み詐欺の事例も……。
普遍的でずっとなくなることのない、取り込み詐欺の実態に迫ります。
目次
取り込み詐欺の特徴
取り込み詐欺の流れを、ざっとまとめると下記のようになります。
- 最初は少額の現金取引からスタート(販売先に大手がいるという販路情報を伝えることも)
- 初期段階では小口の取引が続き、決済が遅れることもない為「信頼できる企業」という印象を与える
- 換金性の高い商品に狙いを定め、大口取引のアプローチを仕掛けてくる
- 突如、会社を倒産させたり、雲隠れするなどしてお金を回収することが困難になる
主に概要はこのようなフローです。
大口の取引の際に、代金は後払いになるため計画倒産などをされると、詐欺だったことを立証することができず、被害者には打つ手立てがなくなります。
詐欺師が行うラポール構築に注意!
心理療法の場でよく使われているラポールという言葉。
ラポールには「信頼」「安心」「ポジティブな感情(好感)」などの意味があります。
最近では商談や営業をする人の中でも、ラポールというワードは日常語のように飛び交うようになりました。
ビジネスを進める上で、必要不可欠なのがラポール。
詐欺師はラポール構築の重要性を熟知しているため、最初に「我々は信頼できますよ!」「絶対に裏切りません」と、あえてわかりやすい行動を能動的にとってアピールしてきます。
「ちゃんと約束を守ってくれる相手だ」と安心した後のタイミングで、騙しにかかるため詐欺被害者は金銭的な存在だけでなく、大きな精神的ダメージをこうむります。
取り込み詐欺は昔から存在
別称「パクリ屋」ともいわれる、取り込み詐欺の歴史は古く、明治時代から存在した詐欺の手口だといわれています。
古くは1880年2月に、東京で詐欺師の男女が呉服屋や道具屋、小間物置から数百点に及ぶ品物を取り込んだ末に逃亡した事例が報告されています。
また1951年には東京の日本橋にある雑貨商「万屋」が、全国にある数百の企業から当時で4,000万円相当の商品を騙し取った事例もありました。
この詐欺業者は、一度逮捕されたもののまるで反省しておらず、その後、別の企業から3,000万円に相当する商品を騙し取ったのです。
当時の金額で、これだけの被害総額が出たことからも見て取れるとおり、かなり大きな被害額が出やすいのも取り込み詐欺の特徴といえるでしょう。
取り込み詐欺でよく利用される休眠会社とは?
休眠会社とは、長期間企業活動を行っていない会社の呼称です。
株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの
会社法 第472条1項
と規定されています。
会社を解散するとなれば、解散登記、清算決算などが必要になる為、費用や手間がばかになりません。
しかし、休眠会社にしておけば、廃業に費やすコストなどをカットできるため、今でも解散よりも休眠を選択する人が少なくなく、どんどんその数は増え続けています。
「休眠会社は、詐欺に利用されやすい」と、色々な人間が指摘しています。
とりわけ取り込み詐欺で、休眠会社が利用されることが少なくありません。
取り込み詐欺と休眠会社は密接に関わっています。
「一時的に会社を運営しているように見せることで、物品を騙し取りたい」と企んでいる取り込み詐欺を行う人間からすると、休眠会社ほど便利なものはないでしょう。
過去に一度、取り込み詐欺に使われた休眠会社の登記が複数回悪用された事例もありました。
法務局は毎年、何万件という法人登記を受け付けています。
これら全てを隈なくチェックすることは実質不可能です。
今後も取り込み詐欺を企図する輩に、休眠会社が利用され続けていく確率が高いでしょう。
法務局も何の策を練らないままでいるわけにはいかず、経営実態のない休眠会社の整理を進めるようになりました。
一定期間以上、役員の変更などの登記が行われない休眠会社を法務省の権限により解散させる「みなし解散」が増加しています。
積極的に「みなし解散」をしていくことで、「詐欺師に利用される休眠会社を少しでも減らしたい」という狙いがあります。
取り込み詐欺に用いられやすいもの
取り込み詐欺でよく利用されるものには、かなりたくさんのバリエーションがあります。
- 電化製品
- 台所用品
- 文房具
- 食品
- 洗剤
- 事務用品
- 建築工具
- 航空券
- 金券
これらが全てではなく、取り込み詐欺の内容によっては、異なるものがピックアップされることもあります。
取り込み詐欺で手に入れた商品を詐欺業者は、小売業者に販売したり転売するなどしてお金に換えます。
取り込み詐欺は、仕入れた商品をどこに流せば利益がでるか最初の段階で青写真を描いているため、騙してからの動きは実にスムーズです。
被害者が「もしかして、取り込み詐欺に遭遇してしまったのでは!?」と気づいた時には、すでに詐欺師は商品を売り払い終わった後であることも少なくありません。
コロナ禍を利用した取り込み詐欺
新型コロナウイルスが流行したことで、我々の暮らしは大きく変化しました。
依然、満員電車で通勤している人達がいるものの、「そもそも毎日オフィスに出掛けて仕事をする必要があるの?」というライフスタイル自体に疑問が投げかけられました。
2020年以降は、テレワークという新しい概念が広まりつつあります。
コロナ禍で苦しむ企業が少なくない中、Zoom株は急騰。
それまでSkypeやチャットワークを使用していた人が、一気にZoomユーザーになったのは記憶に新しいところです。
テレワークが普及すると、WEB会議をするための機器の需要がアップしました。
振り込め詐欺を企てる人間は、こうした需要の変化に目をつけ巧みに近寄るものです。
OA機器の契約をとりつけ、初めのうちは現金による決済を行い、大口取引のタイミングで「今回の取引は、後払いでもいいですか?」と決済方法を変更します。
ただちに会社を倒産させて物品だけを騙し取るという詐欺事例が報告されています。
振り込め詐欺を仕掛ける人間は、飛び込み営業によってやってくることも少なくありません。
弁舌さわやかで好感を持てる人間でも、長期的に信頼するに値するかどうかは、しっかり考えた方がいいでしょう。
騙すのに慣れている詐欺師ほど、人の懐に飛び込む術を心得ており、愛想や愛嬌が抜群に良かったりする例は枚挙にいとまがありません。
不況の時ほど取り込み詐欺が増えやすい
2020年、2021年は新型コロナウイルスに我々の生活がひたすら翻弄される年となりました。
飲食店だけでなく、多くの企業が資金繰りに苦しみ、十分な融資を受けられず苦しんでいます。
詐欺業者は「みんなが何で浮かれているか?」あるいは「何で苦しんでいるか?」「何を不安に感じているか?」など、社会情勢を読み解きながら、トラップを仕掛けてきます。
かつて東日本大震災の復興支援を謳った取り込め詐欺を行ったに詐欺師が、複数逮捕されたことからもわかるとおり、彼ら彼女らは時代の変化に極めて敏感です。
経済不安が起こっている状況ほど、取り込み詐欺が発生しやすいのは確かです。
企業が「取引なども含めて規模を縮小しよう」と考えている際に、「こんな話があるんですけど、どうでっか?」と、協力者の振りをしながら巧みに近づいてくるのです。
「コロナ禍は、人を騙す絶好の機会!」と捉えている詐欺師も、数多くいるはずです。
不安に押しつぶされそうになっている人を、詐欺師は嗅ぎつけて近寄ってきます。
頻繁に大きな災害などが発生するなど、社会が不安定な時期ほど、詐欺師の罠にはまらないよう注意しましょう。
例えコロナ禍が終わっても、長きに渡る不況が訪れるという予測している経済評論家もいます。
新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年以降は、これまで以上に詐欺への警戒心を高めるべきでしょう。
とんとん拍子で決まる話ほど危険
「渡りに船を得る」ということわざがあります。
意味は「望んでいるものが、ちょうど都合よく与えられる」というものです。
実は、取り込み詐欺の始まりは、渡りに船を得るような状況が非常に多いのです。
具体例を挙げましょう。
2020年は、新型コロナウイルスが猛威を振るわなければ、日本で通算二回目となる東京五輪が開催されていたはずでした。
世界各国から訪れる人を見込んで、食材を海外に大量発注していたある業者が狙われた事例を紹介します。
東京五輪の延期が決まっただけでなく、緊急事態宣言によって飲食店の需要がいきなり減り、食材の相場が一気に下落しました。
男性が大量の在庫に頭を悩ませていたところ、渡りに船の電話が…。
男性の持つ食材の在庫を「買わせてくれませんか?」という業者がいきなり現れたのです。
商談を担当した人間は、パリッとした姿で食材の相場にも精通しており、信頼しても問題ないように映ったようでした。
担当者がかなり専門的なことを理解していたこともあり、男性は彼のことをすっかり信じ込んでしまいました。その場で取引の契約を決めたのです。
ここからは取り込み詐欺の典型的な流れなのですが、小口の取引を行い、商品を納入すると翌月末に入金が確認できました。
二回目に発注量が突然増えます。
在庫がはけるのは男性からすると、願ったり叶ったりです。
しかし、喜んだのも束の間。
男性が数千万円に及ぶ商品を納入した後、入金期限が近づいてきたタイミングで弁護士から「破産申請の準備に入った」との通知が……。
その通知を見て「自分が取り込み詐欺のターゲットとして狙われ、被害に遭ったんだ」という事実を男性はようやく理解したのです。
一応、登記簿を調べて掲載されていた住所を尋ねたが無人。
やっと連絡がついた取引先の会社関係者からは、「自分達も経営陣と連絡がとれずに困っている」ということを伝えられ、結局手がかりを得ることはできなかったのです。
この取り込み詐欺被害に遭遇した男性は、「詐欺に引っかかったことが知れ渡ると、会社のブランドに傷がつく」という理由から、現在も詐欺被害のことを周囲の人間に明かしていないといいます。
仕事が上手くいったり、人生がステップアップするのは確かに幸運が巡ってきて、グッドタイミングが重なるのはひとつの条件かもしれません。
しかし、あまりにとんとん拍子で進みすぎる話は、疑ってかかった方がいいでしょう。
なぜならそれは、詐欺師が人を欺くために画策した詐欺プランかもしれないからです。
疲弊した企業が取り込み詐欺に手を染めるケースも…
窮状に付けこまれてしまい、取り込み詐欺被害に遭うケースについて上記の項目で説明しました。
コロナ禍では、「売上の見込めない企業が計画的に倒産することをあらかじめ定めた上で、取り込み詐欺を仕掛ける」という事例も報告されています。
たまに生活苦に陥った人間が、コンビニ強盗をしてしまい逮捕される事件が報道されることも。
同じように、コロナ禍ではこれまでは「詐欺をしよう」などという発想を一切持たなかった人達が、追い込まれた結果、取り込み詐欺に手を染めるケースが増えるかもしれません。
これだけ多種多少な情報が簡単に手に入りやすくなった時代では、「詐欺をしよう」と考えたらいくらでも境界線を越えやすくなっています。
苦しいからといっても一度でも罪を犯してしまうと、前科がついて、これまで築き上げた信頼を一瞬で失いかねません。
どれだけ苦境が続いても、あなたは絶対に詐欺師側へ転落しないようにしてくださいね。
取り込み詐欺を防止するためには?
取り込み詐欺は用意周到に準備され、慎重に遂行されるため見破るのがかなり難しいといわれています。
一点見破るポイントを挙げるとしたら、登記簿をしっかりチェックすることです。
登記自体は、一度犯罪に用いられたとしても無傷の状態で残るため、それだけでは判断が難しいのが実情です。
しかし、登記を徹底調査することで、被害に遭遇する確率を下げることができます。
登記簿を確認した際に、もし本社の所在地や役員、あるいは事業目的が頻繁に変更されているのであれば、かなり怪しいといえます。
かつては登記簿を確認する際、法務局まで足を運ぶ必要がありました。
しかし最近ではWEBのみで確認することができるようになっています。
オンラインの『登記情報提供サービス』(https://www1.touki.or.jp/)にアクセスすれば、登記のチェックが可能です。
少しでも「怪しいぞ!?」と思う点があれば、必ず登記の洗い出しを実施してみてくださいね。
取り込み詐欺は立証が困難!騙されてからでは遅い
前述したように取り込み詐欺を仕掛ける側は、最初から「どのタイミングで会社を畳んで雲隠れするか?」ばかりを考えています。
はぐれメタルなみの逃げ方をするため、取り込み詐欺に遭遇してからお金や物品を取り戻そうとしても、かなり難しいといわざるをえません。
相手を捕まえて「こらワレ、しっかり取り引きせんかいっ!」と凄んだところで、「すんまへん、会社が潰れてしもて、支払うお金おまへんねん」と、へこへこされたらどうしようもできないのです。
賢くズルい詐欺師ほど、すり替えが得意です。
「最初から支払う気がない」というのを「支払いしたい気持ちはあるのだが、会社が倒産してしまったゆえに、支払えない」と演出します。
悪意たっぷりのくせして「悪意はないんです!」と涙ながらに訴えられことを平然とできるのが一流の詐欺師です。
多くの詐欺師は、そんな真似を造作もなくやってのけます。
詐欺師の多くが最初は協力者を装い近づいてきて、信頼を築き上げた後、騙しにかかります。
当然ですが、どんな詐欺も最初から被害に遭わないに越したことはないでしょう。
人に優しくしたり、信頼しようとする姿勢自体は素晴らしいのですが、お人よしほどカモにされやすいのも事実です。
性善説を信じすぎるよりは、ある程度、性悪説で暮らすスタンスの方が騙されづらいのです。
まとめ
取り込み詐欺の手口や歴史などを振り返りながら、
- 何に注意すべきか?
- どういったものが取り込み詐欺に利用されやすいのか
- 怪しい場合は、何をどのように確認すればいいのか
などについて説明しました。
詐欺師ほど、偽物を本物に見せる演出に長けた人達はいません。
取り込み詐欺に遭わないためには、何度も「はたして本物か?」という観点で入念にチェックすることが大切です。
「この会社、はたして本物?」「この件を持ち込んできた人間は、本当にこの企業の人間?」など、しつこいほどに調べ上げるくらいでちょうどいいかも?
騙されてからでは、手遅れです。
あなたも日々トラストリテラシーを高めて、悪質な詐欺に遭遇しないようにしてくださいね。